12月25日、街は人工の光に満たされ、人々は慌しく賑わう。
冷たい空気と人々の活気で、気温は適温となり、居心地の良い空間を作り出す。
そんな空間には、都合よくBGMが鳴り響き、全てを盛り上げる。
大抵は、誰もがこの日を好きになる。
今昔の夜
丸1日中、選抜でのサッカーの練習は、成長途中の自分の体には少しキツく、疲労はかなりのものだった。
そんな自分を家で待ってるのは、真っ暗な部屋に冷め切った1人分のディナー。
今となれば、そんなのは毎日の事だから慣れてしまった。
ただ、そんな自分がこの明るい商店街を歩いているのが、矛盾しているように感じる。
空を仰いだって、星なんて見えやしない。
初めからクリスマスの都会の空に、星なんて期待はしていないけど。
なんとなく、冷たい風が吹けばいいな、と思っただけだ。
「ブッシュ・ド・ノエルはいかがですか〜」
風の代わりに、そんな声が飛び込んできた。
その声は、明らかに知っていて、懐かしい声だった。
僕は声のした方を向いて、その声の持ち主を探した。
すると、ケーキ屋の前で女版のサンタの格好をしてケーキを売っている。
「おい、!」
僕は、背を向けている彼女にそう声を掛けた。
彼女は一瞬驚いて、僕が「何やってんだよ。」と言うと、苦笑いした。
原則として中学生のバイトは禁止だ。
「お願い、5分だけ待ってて!」
訳も分らず、僕は言われた通りその5分を待った。
さらに5分待って、ようやく彼女が店内から出てくる。
今度はPコートにミニスカート、ブーツという女の子らしい私服姿で、
両手には、2つのケーキの箱をぶら提げていた。
「ごめん、10分掛かちゃった。
お詫びって訳じゃないけど、店長がくれたから貰って?」
彼女は、右手に持っているその箱を、僕の目の前へ突き出した。
基本的に甘い物は好きではないが、断る理由も特に無いので、お礼を言ってそれを受け取った。
それから、しばらくお互い無言のまま歩き続け、僕は1つの事を考えていた。
彼女が何故、バイトをしているのか・・・。
彼女の両親は忙しく、1ヶ月に数回帰ってくる位だと聞いている。
確か、父親が弁護士で母親は秘書だ。それに彼女だって麻城に通っている。
だから、金に困っているとは思えない。
だったら、何なんだ?
「そろそろ考えはまとまった?」
薄々気付いてたけど、僕が集中出来るよう、彼女は今まで黙っていたのか。
僕はきっと、彼女のそういうところを買っている。
「の考えてる事なんて、何時間あっても分らないね。」
「そう? まぁいいや。バイトやってる事に、特に理由は無いよ。
ただクリスマス1人で過ごすのも寂しいし、有意義に過ごそうとした結果そうなっただけ。」
その時の彼女の寂しそうに笑う表情は、本当に一瞬で儚いものだった。
同い年の奴がどうして、こんな表情が出来るのか不思議でならない。
僕の周りの女が、煩い奴らばかりだからか?
それは彼女が今まで、他の奴らとは違う生き方をしてきたからだ。
「晩飯、1人なら一緒に食おうぜ? 僕も1人だから。」
気付いた時には、そんな言葉が出てきていて自分で驚いた。
ただの同情か、それとも自分が慰められたかったのか・・・。
何にしろ、一緒にいたいと思った。
は嬉しそうに返事をして、僕の家へ行く事になった。
あれから、歩いて約20分・・・。
各々のイルミネーションの中、1つの灯りも無く殺風景に馬鹿でかく建っている家。
周囲から見れば、不思議でならないかもしれない。
「相変わらず大きいなぁ。しかも殺風景。」
彼女は僕が麻城にいた頃から、この家に何度か来ている。
あんな学校の中で、よくつるんでいられたな、と今では思う。
「家の大きさなんてリフォームしない限り、変わる訳ないだろ。
それに殺風景なのは、の家だって同じじゃないか。」
昔のリズムが思い出されたかのように、2人して笑った。
よく孤独という寂しさをネタに、すべてを笑い飛ばしてた。
今昔の差なんて有りはしない。
すぐ家に入って灯りをつけ、暖をとった。
馬鹿でかい家にたった2人の為、部屋の中は暖まらず僕達はコートを脱げずにいた。
それさえも可笑しくて笑い飛ばし、結局和室でコタツに蹲った。
やっと部屋が暖まった頃、いつの間にか僕の中で矛盾していた気持ちも消えていた。
2003/12/28 written by 葵