今日は、1年の中で一番イルミネーションの輝く日。
例年通り、俺は親友と伴にこの日を過ごす。
そして、年間行事ともなろうこのゲーム大会。
その大会でサンタは、俺に「敗北」をプレゼントした。
けど、その「敗北」は生涯一番大切なモノとなる。
Ring
「くっそー、あいつら私にも容赦なくない?」
「まぁ、結人と英士だからな、仕方無ぇじゃん。」
俺の隣で苛立ってる彼女、 。
俺達は、格ゲーで負けたため、ケーキを買いに走らされている。
そもそも、クリスマスケーキを当日に買いに行くのはどうなのだろうか?
しかも、こんな寒い夜に買いに行かせるか?
「あ!一馬、コレじゃない?」
クリスマスパーティーは、結人の家でやってた訳で、俺達は道が全く分らない。
大体、結人の説明も分りづらい。
『駅の方向に突っ走ってくと、デカいイルミネーションがあるから、そこを左ね。』
この説明で何が分らないかと言うと・・・
デカいイルミネーションが、どういう形でどの辺にあるのか、という事。
だから、ポイントであるデカいイルミネーションを探していた。
そして、が見つけたそれは、ツリーから柵やら何やらまで飾り付けられていた。
その一軒家自体がデカいのだから、確かにそれっぽい。
しかし、結人の表現だと固体のイメージがある。
まぁ、結人だから、こんな事考えても無駄にも思える。
つまり、とにかく行くしかないのだ。
俺達は目を合わせると、同じ事を考えていたのが分った。
ただ、それを悟った途端、苦笑いしか出来ず、とりあえず左に曲がった。
おかしい。明らかにおかしい。
何がって・・・あるはずのケーキ屋がどこにも見当たらない。
左に曲がってから、俺達は500mは走ってるはずだ。
なのに、あるのは未だに光り輝く住宅街と、どこかで見たような公園。
また、同じところを走ってるかのような感覚にも襲われる。
「一馬・・ストップ。・・・限界。」
彼女は、俺のコートの袖を掴んで止まった。
すっかり、各々のイルミネーションに気を取られて、彼女の体力の事を忘れていた。
当たり前のことを、俺は変な時にミスをする。
好きな人がいれば、気を遣うのは当たり前だ。
それも2人っきりになった時なんて、言うまでもない。
「ゴメン。そこの公園で休もう?」
彼女は息を切らしながらも、小さく頷く。
俺は彼女をブランコに座らせると、先程の失態を挽回しようと、側にあった自動販売機へと走った。
チャリン、と10円玉と100円玉を入れていく。
飲み物を選んでいると、視界の隅にデジタル時計が映った。
結人の家を出てから、約20分が経とうとしている。
結人曰く、ケーキ屋まで走って約10分。
この際、ケーキなんてどうでも良い。
何もかも全てを、結人の所為にしてやろう、そう思った。
ガコン、と出てくる2つの缶を手にとって、また走ってブランコへ向かう。
俺は2つの暖かい缶の内1つを渡し、隣のブランコへ座った。
缶を両手に持ち、悴んだ手を温めてから開けようと、そう決めた。
隣のキィコキィコという音に吊られて、俺もブランコを軽く漕いだ。
「ここって、昔遊んだ場所だよね?」
「やっぱり?」
"どこかで見た"というのは、ただ単に昔の記憶だった。
なんとなく、漕ぎ始めてから、そんな感じがしていた。
たぶん、体が覚えていたんだと思う。
さりげなく、左手をポケットに入れて探る。
プレゼントってやつを。
「ってさ、サンタクロース信じてる?」
「かじゅまくん、信じてるのね。そうか。そうか。」
「誰が言ったよ、そんなこと。」
確かに小さい頃は、俺だって信じてたけどな。
でも、それは誰だってそうだろ?
誰だって、最初は綺麗な夢と未来だけを見て育つんだ。
「今となれば、夢のまた夢だよ。
嗚呼、私も小さい頃は、夢見る乙女だったんだなぁ〜」
俺は、厭きれたように2つ返事をした。
すると、彼女はムッとして悪口を連発し始めた。
だけど俺は、笑い返していた・・・。
「大人になっちゃったね、私も一馬も皆・・・。」
いつの間にか止まっていたブランコは、名残惜しそうにまだ少し揺れている。
ドラマなんかで見るその姿は、間近で見ると物凄く切なくなった。
思い出の場所でもある所為か、色んな記憶が交じり合う。
「そう、かもな・・・。」
心も体も考え方も、何もかも成長している。
思春期という一番中途半端な時期だ。
子供なのか、大人なのか・・・そのラインは目に見えない。
何を感じ、何を思うのか、常にそれが変化する。
「哀愁に浸るの辞めようぜ? クリスマスだしさ。」
苦笑いしあうと、俺は立ち上がって、彼女の目の前に屈んだ。
ポケットに突っ込んだままの左手を取り出して、小さな包みを彼女の膝に乗せた。
「開けて」と伝えて、俺は今度、彼女の真正面の柵に座った。
彼女が完全に開けるまで待って、俺はやっと口を開く。
「友達なら右手、恋人なら左手にして欲しいんだけど・・・。」
"だけど"の後に、言葉は続かない。
続く言葉も見つからない。
俺の初めての告白は、曖昧な告白となってしまった。
でも、今の中途半端な俺を表すのには、最適な言葉なのかもしれない。
「一馬に、左手に嵌めて欲しいかも・・・。」
彼女もまた、曖昧な答え方をする。
小さい頃は、左薬指の指輪の意味など全く知らない。
それが今では、間接的に表現しても伝わる。
俺達は皆、少しずつ確実に成長している。
その経過が、体や言葉に表れるのだろう。
それが、今の俺達だ。
2003/12/25 written by 葵