あの時 1番辛かったのは あいつのハズなのに
いつもあいつは ヘラヘラ笑ってるから
あいつの泣き顔なんて 見た事ないから
誰も気付いてやれなかった
何もしてやる事はないと










スノーマンはクール便でやって来た!










暖房の効いた教室から出るのは、あまり気が進まなくて。
でも、近過ぎるストーブからは解放されたくて。
とりあえず、マフラーと手袋をストーブに乗せて、コートを羽織りながら幼馴染みの小岩鉄平の席へ向かった。


「小鉄、成績どうだったよ?」


いつも通りの軽い調子で尋ねた。
、つもりだったが、先に手がその答えとなるものを取り上げていた。


「あ、バカ!何勝手に見てんだよ!」

「どうせ見るんだから良いじゃーん。」


この軽々しい態度がムカツク、と他人から言われ嫌われる事も多々ある。
だが、1人だけそれを誉めた奴がいた事も事実。

『雪みたいに軽くて面白いよ、お前。』

だから、この性格を直そうとは思わない。
今となれば、その言葉以外のあいつとの全ては、モノクロが美化されたパチ物の宝石だが。


「あぁらら、体育だけ天才的なのな。」

「うっせぇな、はどうだったんだよ?」


手に持ってきた自分の通知表を渡す。
驚いた彼の顔は、みるみる内に諦めた様な顔に変化していった。
吊り上っている眉毛が、眉間に皺を寄せ、片方だけ跳ね上がる。


「ふん、俺には足があるもんねー。」

「光宏には負けてたじゃーん。」

「てめぇだって1科目しか勝てなかっただろ。」

「む・・・!」


思わず、自分の通知表をはたく様に、乱暴に、彼の手から奪い返した。
勿論彼が悪い訳ではない。
あいつとの美化された煌びやかな思い出達が悪いのだ。
忘れてしまいたい、とは思う。
でも、それじゃあ、あいつから逃げたみたいで嫌なんだ。
それじゃあ、あいつに本当に負けたみたいでダメなんだ。


「あー、わりぃ、じゃなくて、ごめん・・・。」

「別に、いつもの事だから気にしねぇけど。」

「つーか、あいつ、私達の事どう思ってんだ?
 ダチなら連絡くらい寄越せ!って感じー。」


どこにいるのかも分らないあいつを見ながら、クリスマスの近いこの街を窓から眺めた。
手摺に凭れた肘から、外の冷たさが染込む。
校庭には白い雪の代わりに、黒い頭が数人白黒のボールを追いかけて犬の様に駆け回る。
・・・・・。
・・・・・・・・・。


「私帰るわ。」

「また唐突だなぁ。」

「気にすんなよ。」

「気にしてねぇつーの。」


自分の席へ戻って、ストーブに乗せていた手袋とマフラーを身に付けた。
ストーブの余熱で暖かくなったそれは、直に触れていると熱いのだが、外に出ればそんな熱もすぐに冷めてしまうのだろう。
完全防寒してから 「じゃあな、頑張れよ」 と教室の最後に残るやつにそう告げた。
彼は選抜や家庭の事情とやらで、三者面談を受けていないのだ。
あの成績を親と担任と見るなんて、私にとったら笑い話だ。
例え怒られようと、泣かれようと、彼は自分の未来を見切っているのだから。

晴れ渡った空でも不思議と白く感じて、手をポケットに突っ込んで、顔の半分をマフラーに埋めた。
ボールが飛交うのを尻目に肩を更に竦める。
ボールを蹴り飛ばす連中を最後にもう一度見渡したけど、顔は今一拝めない。
心の眼が蟻並みなのだから、視力まで悪くしなくたって良いだろうに。
もしかしたら、ノミ並みかもしれないっていうのに。
仮に、鋭い鷹並みの眼を持っていたら、あの時あいつの事を少しでも解ってやれただろうか?
あいつの前では、誰もが目の前のモノしか見えない愚か者、になってしまうじゃないだろうか?

あの時、私は怒った。
あいつが引越すと告げたあの時、笑ったあいつを怒鳴りつけた。
まだ自分の事さえ見えなかったあの時、相手の事も見れるあいつを突き放した。
幼過ぎたあの時、心を笑って覆い隠したあいつに泣き叫んだ。


「何やってんだろ・・・。」


すっかり枯れた桜並木の落ち葉を蹴り飛ばす。
1,2枚舞い上がっては、ヒラヒラと引力に誘われて連れ去られて行く。
もしも、人と人の間に引力があるのなら、神様はもう1度あいつと私を引き合わせてくれるだろうか?
ねぇ、神様、どうしようもない程愚かな私の願いを聞いてくれますか?
何年も前から、伝えたい言葉があるのです。

14年間お世話になっている我が家を目の前に、祈りを捧げる自分に呆れた。
手袋を脱いで、溜め息混じりに吐き出した息は白く、そして白い空へと溶けて行く。
初めから神様なんぞ信じちゃいない。
それでも、万が一の可能性を信じてしまうのが人間なのだろう。


「ただいまー。お母さーん?」


靴を適当に脱いで、中に入り込んでも一向に声は返ってこない。
買い物にでも行ってるんだろうか?
リビングへと繋がるドアを潜り、コートやマフラーを身に付けたまま、灯も暖房効いていないリビングへと入る。
静まり返ったリビングからキッチンへと目を向けると白いものが飛び込んだ。


「冷蔵庫に宛のクール便が届いてます。」


母親の筆記体の様な癖のある字でそう記された置き手紙。
クール便を確かめるついでに、食器棚からマイカップを取り出して、冷蔵庫の戸に手を掛けた。
以前応募した懸賞のアイスでも当たったのだろうか?
暢気に胸を弾ませながら、戸を勢いよく開ける。
大きめのカップアイスが丁度6個入りそうな靴箱程のものが、バターや晩ご飯の残りもの等よりも堂々とポジションを確保している。
そっとその箱を取り出して、扉を開けたまま宛名を確認した。


――・・・ぇ?


神様を信じてはいない。
ましてや、人と人の間に引力があるなどとも信じてもいない。
それでも、信じて良いのだろうか?

滲んでいく視界から逃げるように、その場から走り出した。
部屋に駆け込んで、後ろ手でドアを閉めて、背を預けながらズルズルと床に座り込む。
箱を胸にキツく抱いて、唇を噛んでも尚必死に嘔咽を堪える。
昼間の夕焼けが、私の部屋を染めては滲んで行く。
抱えた箱と膝を開放して、もう何度目か分らないけれど、指の背で涙を拭った。
息を1つ吐いて、床に箱を置いて、それでも落着かなくて、正座して睨めっこをしてみる。
そっと触れるくらいに開け口に手を当てて、馬鹿丁寧に貼られているガムテープを、ビリビリと破りながらも慎重に剥す。
爆弾でも扱っているかの様に、深呼吸をして、息を飲んでからゆっくりと、フタを開けた。


「Merry Christmas!
 の頭は まだこいつみたいに カチカチのコチコチですか?」


凛々しく綺麗な英字と、不細工な日本語に、私は眉根を寄せて笑った。
箱に入っている雪だるまも、作ったであろう本人の様に、吊り目のくせに優しく笑っている。
そして、また泣いた。

この眼が蟻並みでノミ並みだろうと、雪に眼は存在しない。
どこまでも飛んで行って、ある人には幸せを喜びを、またある人には苦悩を災害を。
日に当たれば簡単にも溶けて、人に踏まれれば悲鳴を上げて。
最後は水になって蒸発して、それでもこの世界を春へと変える。

ねぇ、光宏も雪みたいだって気付いてる?
笑って覆い隠すほど本当は弱いのに、それを見破れないだけの堅さを備えていて。
優しさや温かさを求めているくせに拒んで。

光宏が私に言った全てを、送り返してあげるよ。
マフラーを身に付けた雪だるまと伴に。
私が私のままであるために、光宏が光宏のままであるために。










2004/12/27   written by 葵





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