Jinx
「お疲れ様でしたー。」
東京選抜のメンバーを欠いた桜上水では、
練習にはやる気があるものの、号令にはそれは感じられない状態だった。
というのも、今日だけだ。
何せ、今日は年末の大イベントでもあるクリスマス。
私も、それなりに楽しむつもりだ。
いや、朝から結構楽しんでいたかもしれない。
我が部には、小さなサンタがいる。その名も山口杉太。
彼を部員全員でからかっていた。
「、帰るぞ。」
声を掛けてきたのは、GKの不破だ。
私達は行きも帰りも良く遇ってて、自然と一緒に帰るようになっていた。
初め彼を恐れていたのが笑えるくらい、今では意気投合している。
それに、私は彼を気に入っている。正直、好きと言える。
恋愛感情とは決め付けられないが、おそらく、そういう意味の好きだ。
「ねぇ、不破はさ、クリスマスどう思う?」
まだ6時という時間帯だが、日は落ち辺りはスッカリ暗くなっている。
所々ある、街灯と一軒家のイルミネーションだけが、頼りの光だ。
そんな中をしばらく歩いてから、私は訊いてみた。
「"どう"とは、どういう"どう"だ?」
「んー、キリストの降誕祭じゃない?
それを皆で祝って楽しいのか、って事。」
だって、元々はそうでしょ?
世界中の人々は、こういう根本的なところ気づいてないと思う。
「それは、俺も考えた事がある。
故、太陽の新生を祝う『冬至の祭』がキリスト教化されたものだ。
本当は、信者でもない俺達が祝う必要はない。
だが、大抵の奴らは、こういう根本的な事も知らずに楽しんでいる。
俺としては、それはそれで構わない、とそう解決した。
はどうなんだ?」
「結果的に同じ。朝から杉太からかってたし。」
「あれは、集団虐めの域に入りそうだがな。」
アハハ、と声を出して私は笑った。
無表情のように見えて、少し微笑んで冗談言える君が面白い。
何より、こんな理論を語り合える私達が可笑しい。
「じゃあさ、ジンクスって信じる?」
「理論で解決出来る物なら、信じるかもしれない。」
「よし、じゃあ付いて来て!」
私は勝手に決めて、不破の前を率先して歩く。
私にとって、今年最大の一大イベントであり、一大決心だ。
これを決めたのは、つい最近の事だけど。
歩き続け、約10分。
私の目的地へ着いた。
街外れにある、大きな大きなモミの木の下だ。
ここからは、街も見渡せて、夜には光の海の様にも見える。
それも、クリスマスという特別な日だからだ。
「さっき話してた事、覚えてる?」
「ジンクスの話か?」
私は「そう、それ。」と言って、彼に背を向けた。
彼を見ていたら、すぐに逃げたしたくなるだろうから。
街を左から右へと見渡して、勢いで飛び込みたくなる感情を抑える。
まさに四面楚歌のような、背水の陣のような、そんな状態だ。
「ここでね、告白すると高い確率で結ばれるらしいよ?」
「それで、俺が実験台か?」
ご名答だけど、実験台なんかじゃない。
それに、聞き返さないで欲しかった。
しかし、過去となった事を何と言っても意味がない。
「私、恋愛感情自体が良く分ってないけど・・・
好きな事に変わりないの。」
言ってから、後悔する・・・。
きっと、理論の中で一番してはいけない行為だ。
でも、これは告白。理論なんかじゃない。
「俺も、恋愛感情というものは、未だに理解しきれていない。
だが、やはり考えはと同じようだ。」
かなり遠回りな言い方で、今の私が理解するのには少し時間が掛かった。
ズルイ奴だよね、こういう時だけ率直じゃないんだから。
私は、やっと振り向けて、声を出して笑ってやった。
「ジンクスの方はどうなの?」
「それは簡単だ。
この暗さと高さに、ここへ来るまでの木々、崖の多さ。
それらが緊張や恐怖、不安を呼び、心拍数を上げているに過ぎない。
よくある、高所の橋のパターンと同じだ。」
「やっぱり、そうか。
つまり、理論派の私達には意味無いんだねー。
まぁ、いいか。眺めは綺麗だしさ?」
「そうだな。」
結局、私達のパズルは簡単に組み合うんだ。
でも、ジンクスを利用する辺り、私にも乙女心ってやつがあるんだな。
そんな事を自覚した自分が可笑しくて、今度は声を出さずに笑った。
2003/12/26 written by 葵